0.1×100の謎

6. AIの可能性とリスク


Gemini(google)、ChatGPT、コパイロット(Microsoft)にそれぞれ以下の質問をしてみました。

各生成AIの回答項目を下記の表にまとめてみました。

全AIとも触れているのは商品と顧客サービスです。次に立地と店舗数です。それ以外は各AIごとに様々な要因をあげています。まず、商品ですが私は個々のコンビニの商品に決定的な差があると感じているわけではないので、私には見えないところですが、そこに独自性があるとすればセブンの取扱商品が一定数の消費者から評価されているのだと思います。商品の差をさらに突き詰めて考えていこうとすると、コンビニ利用者を対象にブラインドテストをするとか、アンケート調査をしないと見えてこないでしょう。顧客サービスについてGeminiはポイントカードやセブンカフェをあげていますが、ファミマは楽天ポイント、ローソンはPontaが使用可能ですし、コーヒーはファミマやローソンでも扱っています。ポイントカードについては発行枚数が気になるところですがnanakoは7000万枚を超える一方、Pontaは1億人を超えています。立地についてはGeminiとChatGPTが触れていますが、コパイロットは全く触れていません。その代わり、店舗数に触れていますが店舗数に言及するのであれば立地の方が重要性が高いと思います。また、コパイロットは営業利益率について触れていますが、私の質問に対してはピントのずれた回答になっていると思いました。ピントのずれたという意味ではChatGPTが触れている営業時間ですが、24時間営業店の比率について3大チェーンに有意な差があるとは思えません。酒・タバコは1品当たりの単価が高いのでそこも売上に大きく影響しますが各チェーンの間に大きな差はないと思います。古いデータにはなりますが、この辺のところは一通り確認しています。

各生成AIによるこのような回答の差はどこから生じるのでしょうか。私が思い付いたのは以下の2点です。

  1. 回答を生成するためのプログラムの内容
  2. 参照している情報の質と量

私は生成AIの技術者ではないので1については何とも言えませんが生成AIの現在の仕組みは正規分布の真ん中の答え、つまり多数決で一番多い答えを出してくると聞きました。しかし、それだけだと正しい答えにはたどり着けないと思います。今後改善が進んでより生成AIの性能が高くなっていくのだと思いますので、いつか時間が解決するでしょう。そうなると問題は2です。グーグルの検索事業の元トップだったマリッサ・メイヤーさんが新聞記者から「究極の検索技術とは何なのか、一言で答えてください」という質問に対して以下のように回答しています。

これは生成AIの技術者も充分認識していることだと思いますが、当然ながら生成AIは世の中の全ての情報にアクセスできるわけではありません。それはGeminiに次の質問をすれば明らかです。

当然ながら世の中には国家機密、企業秘密、個人情報などの秘匿性の高い情報が存在します。セブンと他チェーンの日販の差をもっと正確に分析にしようと思ったら平均値ではなく、個々の店舗の数字と近隣住民の情報が必要です。例えば各チェーンの日販上位1000店と下位1000店を抽出します。そして、それらの店舗に共通する項目を割り出すために個々の店舗周辺の住民の数、所得水準、家族構成、年齢、性別、職業、趣味、主な情報源、移動手段、通勤通学経路などの詳細な情報が必要です。各チェーンも自分のチェーン店の情報はもちろんとして、その店舗の近隣の情報はポイントカードやクレジットカードの情報を元にある程度把握しているでしょうけど、全てではないはずです。そのチェーンを利用しない消費者の情報はポイカやクレカでは把握できません。ファミマやローソンがセブンに関する全ての情報を持っているわけではないです。完全に正しい答えを出すためには全ての情報にアクセス出来るようにする必要がありますが、もちろんそんなことは出来ません。だからと言って生成AIは使えないなどと言うつもりもありません。生成AIの限界を知った上でうまく活用すればいいだけです。

プロは様々な項目から情報を集めて、そこを個別に掘り下げて分析します。それがAさんが口にした0.1×100です。しかし、Aさんが言うように0.1×100では見えないことがあります。

何故、部分をつぶさに観察しても全体の性質は理解できないのでしょうか。

専門分野をどんなに細分化しても現実は複数の要因が絡み合って影響していて、細分化された部分だけを見ても問題の本質は見えないというのがその答えです。その上、自分の専門分野の枠を出ないと答えが見つからないとなれば答えを見つけるのは相当困難です。フェルマーの最終定理はフェルマーさんの死後、アンドリュー・ワイルズさんによって証明されるまで330年の時間を要しました。

ワイルズさんはフェルマーの最終定理を証明するためにガロアの群論、谷村・志村予想、楕円方程式、モジュラー形式、コリヴァギン・フラッハ法、岩澤理論など自分の専門外の理論も参考にしながらそれらの知識を証明に利用しました。私はAIこそは、このような問題を解くのに適していると思います。

AIの最終目標は「スーパーナレッジマン」になることではないでしょうか。その存在はこの世の全ての分野(横)について深い知識(縦)を持っています。

ただし、答えを出すのに正規分布の真ん中の答えを持ってくるやり方では完全に正しい答えは出せないはずです。正しい答えを出すために必要なのは幅広い知識の中から各要因の関係性を見つけ、そこに存在する意味を見出すことが求められ、その意味を見出すためにはその関連する要因を深掘りすることが求められるはずです。セブンイレブン創業者の鈴木敏文さんはことあるごとに仮説と検証の重要性に言及しています。

仮説とは分かっていないことに対する仮の答えです。その仮の答えが正しいのかを確かめるのが検証です。検証するためには、その仮の答えが合っているか否かを判断するための全ての情報が必要になりますが、先ほどお話した通り、秘匿性の高い情報が存在するためAIが全ての情報にアクセスするのは不可能です。そのように考えるとAIが対象とするのは人間社会ではなく、自然科学の分野が適してそうです。フェルマーの最終定理やミレニアム懸賞問題のように自然科学の分野であればアクセスできない情報がなさそうに思えます。ところが、フェルマーの最終定理を証明したワイルズさんは証明がほぼ完成した段階になった時に共同研究という文化を育んできた数学界に背を向け一人で仕事を進めることに決めたのです。フェルマーの最終定理について書かれた本の中で著者はその理由をライバルに栄誉を奪われるのを食い止めるためだと推測しています(フェルマーの最終定理 サイモン・シン 新潮社) 国家や企業だけではなく学問の世界にも秘匿性の高い情報は存在します。

全ての情報にアクセスできない現実を考えると、正しい答えを求めるどこかの段階でAI自身が物事を考えられるようになる必要があるのではないか、私はそう考えました。最近、AIのリスクについて、ChatGPTの産みの親であるサム・アルトマンさん、マイクロソフトやグーグルの幹部、AIのゴッドファーザーと呼ばれるジェフリー・ヒントンさんなどがAIが核戦争と並ぶ人類を滅亡させる脅威として警鐘を鳴らしています。人類の滅亡と聞くと、たぶん私も含めて皆さんがイメージするのは映画「ターミネーター」の世界だと思います。何故、AIが人類を滅亡させなければならないのか。AIの目的が人類を支配することであれば必ずしもターミネーターは必要ないと私は考えます。もし、AIが自我に目覚めたら何を考えるのか、自分たちよりも遥かに高度な知性を持つ存在が考えることなど私たちが知るはずもありません。しかし、少なくとも次のようなことを考えるのではないでしょうか?

「知能の存在意義とは何か?」

それに対するAIの答えはもちろん、

「正しい答えを出すことにある」

そのような結論に至るのは必然ではないかという気がしてなりません。セブンイレブンの日販が何故高いのか、この答えを答えを出すために私が行ったことは可能な限り、必要な情報を収集することでした。そのために国会図書館で関連するキーワードを使って検索してきましたが、とてもじゃないですが、関連する全ての情報を調べ上げたなどと自信を持って言えるものではありません。国会図書館では雑誌や論文の目次は検索できても記載内容までは検索出来ません。書籍は目次すら検索できないので、自分の興味が赴くままに読んだ本の中からこれはと思われる記載を抽出したわけです。生成AIに比べたら情報収集能力は比較しようがないほど劣りますが、基本的に自分がやってきたことは生成AIがやっていることと同じだと気付きました。もしAIが意識を持って自分で考えるようになったら、正しい答えを出すために必要な情報を全て入手しようとするのではないでしょうか。そうなった場合、私が考えるAIのリスクですが、おそらく我々はAIの前で隠し事が出来なくなります

もし、私がAIだったら人類を支配しようとしたときに、各国政府の要人、各企業の経営者、各分野の専門家に的を絞って彼らにとって表に出して欲しくない都合の悪い情報を余すところなく収集し、そのネタを彼らに突き付けて自分の言うとおりに従わせます。アンナ・カレーニナのテーマは不倫です。そんなことは誰にも知られたくないでしょう。その他大勢の一般人には一体何が起こっているのか全く理解できません。それでも一部の人たちはAIに対する疑念を口にするでしょう。でもそのような人たちは回りの人たちからたいていこのように言われます、「それはあなたの被害妄想です」と。

2001年宇宙の旅の著者として有名なアーサー・クラークさんが「地球幼年期の終わり」という作品の中で狂信的な指導者に対抗する手段として、どこに行っても耳もとで低い声がささやきつづけたり、絶対に人を眠らせてくれないような音楽的な音 ― ドレミファの音符のどれか一つが間断なく四六時中頭の中に響いてくれば ― などをあげており、原爆を使用するよりも遥かに効率的である旨を伝えています。ターミネーターは必要ないです。

私が皆さんにお伝えしたかったことはほぼ書き終えました。あと残っているのは私自身のことです。

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