0.1×100の謎

5. 真実の行方


人はコンビニを利用する時、どのような基準で店を選ぶのでしょうか。

  

セブンイレブンはお客さんに人気があってとても忙しい? 本当にそうでしょうか。セブンとローソンとファミマで何が違うのでしょうか。おにぎりにしろ、サンドイッチにしろ飲み物にしろ、雑貨にしろ、置いてあるものについてそんなに大きな違いがあるのでしょうか? 日本の厳しい消費者はコンビニにまでこだわって、セブンブランドに対して大きな価値を見出しているのでしょうか。

そもそも店の売上はどのような要因で決まるのでしょうか。

店の売り上げは立地、商品、店舗面積で決まる、これは飲食業に係わらずコンビニにも当てはまると思います。あえてもう1つ追加するとすれば価格ドットコムのところでも触れましたが価格です。価格も消費者が店を選ぶ際の重要なポイントです。ここで皆さんに問題です。

コンビニにとってそれら4項目のうち、他のチェーンと差が付くのはどの項目でしょう?

まず商品についてはいかがでしょう? アンナ・カレーニナの幸せな家庭ではありませんが基本的にコンビニに置いてある商品はどれも似たようなものです。多くの人にとってセブンでなければならない絶対的な理由などないのではないでしょうか。ただし、自分自身のことをいうとコンビニのコーヒーはセブンでしか買いません。機械の前に立つとコーヒーの香りがとても良くてセブンのコーヒーに好感を持っています。おそらくローソンやファミマと味はあまり変わらないと思うのですが、私はセブンについてずっと考えてきたせいか、セブンに対する先入観があって大なり小なりその影響を受けていることは否定できません。でも、おにぎりやサンドイッチ、カップラーメンはローソンやファミマでも買います。ローソンのからあげ君はとてもおいしいです。

店舗面積はどうでしょう? セブンはローソンやファミマより一回りも二回りも広いのでしょうか。コンビニの平均的な店舗面積は30~40坪です。これも商品と同じでどこも似たような広さではないでしょうか。

価格はどうでしょう? 基本的にコンビニは定価販売です。ここも、各チェーン店で大きな差はないと思います。そもそも価格を気にするならコンビニではなく、スーパーに行くべきです。

さあ、そうなると残るのは立地です。昔、ある人にセブンの話をした時に次のようなことを言われました。

1974年5月、東京都江東区豊洲にセブンイレブンの1号店が誕生しました。豊洲は今でこそ、大型商業施設ららぽーとがあり、タワーマンションもたくさんありますが、当時は今みたいに地下鉄もゆりかもめもない工場と空き地が続く埋め立て地でした。1号店を銀座に出店した日本マクドナルドとはえらい違いです。

ところで1974年といえば、日本で大きなトピックスとなる出来事が起った年です。それはオイルショックです。1973年10月に中東で始まった第4次中東戦争をきっかけに原油価格が上昇、その影響で1974年の日本の物価は23%も上昇し、狂乱物価という言葉まで生まれました。出店費用は当初の予算の倍となりましたそうなれば出店できる場所も限られるわけで当然ながらいい立地ほど出店費用は高くなるわけです。そのような状況下で豊洲で酒屋を経営する若い店主がセブンイレブンへの加盟を希望したわけです。その元酒屋が1号店になりましたが、この辺の詳しい話はNHKの昔の番組であるプロジェクトXでも取り上げられましたので興味のある方は番組や書籍をご覧下さい。

そもそもこの当時、コンビニなんて小さな店が成功すると思っている人の方が少なく、親会社のイトーヨーカ堂でも多くの反対があったといいます。そして、そのような事情は出店にも大きな影響があるわけです。

新しいことをやろうとすれば最初は実績も信頼も金もない状況でスタートしなければいけないわけです。そんな状況下でどうやって早くいい場所をたくさん取ることができるのでしょうか? そんなこんなで天下のセブンイレブンも立ち上げの時代はとても苦労したようです。だが、出店を重ねコンビニで一番の店舗数となっていくうちに信頼を勝ち取っていったのだと思います。ここで私は次のように考えました。それは「業界1位の企業により良いものが集まるのではないか」という仮説です。優秀な学生は業界2位よりも業界1位企業への入社を第一志望とし、様々な商品やサービスの供給を担う企業も業界2位よりも業界1位企業と取引したいのが本音ではないかと思ったのです。その結果、人、物、サービスなど多くのより良いものが業界1位企業に集まっていき2位との差を広げていくのではないかと。塵も積もれば山となる、まさに0.1×100です。ここで私が気になったのはタリーズコーヒー創業者松田さんが不動産業者について言及した部分です。もし、自分が不動産業者だったら信頼のおける大手チェーン1位、2位、3位、4位、5位のうち、どことたくさん取引をしたいと思うだろうか、ということを考えました。

キリンビールとアサヒビールのような例外はありますが、業界1位に良いものが集まる仮説が正しいとすると2位以下が1位を追い抜くのは至難の業です。当時、住友銀行の副頭取を辞職してアサヒビールに転職した樋口廣太郎さんの元、同社で様々な改革が行われスーパードライという大ヒット商品を生み出したのは有名な話です。それによりアサヒはキリンを抜いてビールシェアでトップに立ちました。面白いことに樋口さんも鈴木敏文さんと同じで業界の素人でした。しかし、このようなことが起きるのはレアケースです。国内でトヨタに勝つ自動車メーカーが現れる日が来るのは想像し難いです。

もう1つ重要な視点としては消費者がコンビニに何を求めているかです。

コンビニに対して消費者が求めるもの1位は圧倒的に立地です。この消費者が求める最も大きい要望を最大限に満たした企業があります。それは鉄道会社を親会社に持つコンビニです。

エキナカという最大の立地を武器にしたNEWDAYSが2007年にセブンを抜いたのです。これは私にとっては大きなトピックスとなりました。立地のことは分かっていたけど、失われたアークを見つけたインディ・ジョーンズでなければならなかった私は自分にとって、「セブンの売上の高い理由は他のコンビニに比べて虚偽の報告が少ない」でなければならなかったのです。そのため立地は私にとって最も認めたくない要因でした。しかし、さすがにここまで来たら自分の考えを変えざるを得ませんでした。私の考えは今では完全に変わりました。セブンの売上が高い理由は立地条件の良さです。コンビニによって一番重要な経営資源である立地が業界1位のセブンイレブンに集まってくるのだと私は推測しました。さすがにエキナカにまで進出するのは難しかったでしょうけど。ところで立地要因ですが、セブンとファミマ、ローソンの平均日販の差のうちどれくらいの割合が影響しているのでしょうか? 競馬の勝敗に影響するのは馬の力7割、騎手の力3割とよく言われます。立地はどうでしょうか、平均日販の差のうち3割か、5割か、7割か、あるいは10割か?  

実は平均日販ですが現在はまた、セブンイレブンが首位に返り咲いています。一時的に追い抜いたのに何故、このような結果になってしまったのか、その主な理由としてNEWDAYSのマーケティング担当者によるとエキナカにあるコンビニという特性上、急いでいる人が多く接客対応にスピードが求められる、そのためにスピードを追求すると消費者の購入単価が抑えられるということを説明されていました(ITmedia ビジネスオンライン なぜ小さなコンビニが、セブンより下でローソンより上なのか 2015年6月3日) これは非常に分かりやすい説明です。そもそも自分自身、通勤にJRを利用しないためNEWDAYSを利用することは滅多にありませんが、利用するにしてもせいぜい喉が渇いてペットボトル飲料を買うくらいです。これから出かけようとするときに駅のコンビニでまとめ買いをする必要はないわけです。しかし、この事実から1つ言えることがあります。コンビニにとって立地条件は高い売上を実現するための非常に重要な要因ではあるけれども立地が全てではないということです。NEWDAYSの場合、強みが同時に弱みにもなるという典型的な事例だと理解しました。とはいえコンビニの売上にとって一番重要な要因は立地の優劣にあることは間違いないはずです。

店名NEW DAYSファミマ
決算期2019/32019/2
既存店平均日販569千円538千円
既存店平均客数1522人896人1.70
既存店平均客単価373円600円0.62
店名ローソンファミマ
決算期2019/22019/2
全店平均日販531千円530千円
全店平均客数773人1.97879人1.73
全店平均客単価687円0.54603円0.62

立地要因がセブンと他チェーンの日販の差のうち、どれくらいの割合を占めているのかを考えるにあたって、2018年度のNEWDAYSとファミマの既存店の客数と客単価を比較します。なぜファミマかというとローソンは既存店の客数と客単価を開示していないからです。NEWDAYSは最も立地の恩恵を受けているコンビニです。客数で両社を比較するとNEWDAYSの客数はファミマの1.7倍です。これが立地要因による客数の差だと仮定します。次に客単価です。客単価は逆にファミマの方が高いです。エキナカという究極の立地は客単価を削ぎ落とす負の力を持っています。NEWDAYSの客単価はファミマの62%です。この客数倍率1.7+客単価倍率0.62を足して2で割ると1.16です。この1.16が立地要因による売上増加分だとすると立地の力を除いたNEWDAYSの日販は569千円÷1.16=490千円です。569千円と490千円の差79千円がNEWDAYSとファミマにおける立地要因による売上の差とします。2019年2月期のセブンイレブンの全店平均日販656千円に対して、ファミマの同時期の全店平均日販は530千円、656千円-530千円=126千円ですね。この126千円のうち79千円の占める割合は63%、約6割です。セブンとファミマの日販の差のうちの約6割が立地で決まってしまうのだとしたら、皆さんはどう思いますか? 上記は仮定上のざっくりとした計算なので実態は違うかもしれませんが立地要因が5割から7割の間だったとしても私は違和感はありません。しかし、実は他にも考慮しなければいけないことがあります。まず、NEWDAYSは駅の施設の中にあるという立地のため24時間営業ができません。大抵は早くて21時、遅くても23時閉店です。もし、NEWDAYSが24時間営業可能だったら(JRが24時間営業を始めたら)客数が5%増えただけで日販は約3万円増えます。良く見ると店舗面積もマチナカのコンビニの半分くらいのところが多いです。そう考えると立地要因の割合はもっと大きいのかもしれません。片や全部で500店、片や15000店を超える店舗を運営するチェーンの規模の違いはあるので単純に比較できないのは承知しています。スケールメリットの追及は仕入単価減という大きな正の力を産みますのでそこはNEWDAYSが大手コンビニに敵わないところになります。しかし、立地の優位性を最優先すれば効率よく稼げるという一面も否めないでしょう。

こうしていろいろ考えて立地にたどり着いた私が最後に思ったことは、商売において本当に重要なのは立地よりも商品だということでした。「えっ、こんなに多くの事例を紹介しておいて、最後は立地の良さがセブンの売上が高い一番の理由とか言っておきながら、商品のほうが重要とはどういうこと?」 皆さんがそう思われたとしても無理はないです。しかし、環境というのは変わることもあります。立地の良い場所なら他のコンビニが近くに進出してくることもあります。駅前の開発で人の流れが変わったことで来店客数が大幅に変わることもよくあることです。しかし、どんなに立地が悪くてもネットで評判のおいしいラーメン屋には駅から歩いて15分、20分かかっても行列ができます。子供の学習塾を選ぶときに皆さんが重視するのはどのようなことでしょうか? 駅前から近いとか家から近いことを一番重視しますか? 違いますよね。合格実績の高い、評判のよい塾を最も重要な選択ポイントにするはずです。扱う商品やビジネスによって消費者が企業に求める優先順位が違います。そういう意味ではコンビニにおける一番の商品は立地と言いかえることができます。では、立地以外には消費者がコンビニに求めるものは何でしょうか。立地以外ではAさんが言うように0.1×100の効果があるのかもしれません。それは物流システムの仕組みだったり、掃除の仕方だったり、アルバイトの使い方だったり、Aさんの言葉をそのまま受け取ればそういった細かな改善がたくさん行われていたのではないかということです。虚偽の報告が少ないというのもあるかもしれません。しかし、それもあくまで0.1×100の中の1要因に過ぎないということでしょう。

さて、最後に私の中で大きな謎が残りました。それは、何故Aさんは私に0.1×100の話をしたのかということです。Aさんは365日、24時間そのことを考えているプロで経営企画室という社長直轄の組織で会社の頭脳として仕事をしている人です。当然ながら、コンビニにとって立地がいかに重要かということは充分すぎるほど分かっていたはずです。それに対して0.1×100というのはあくまでも枝の話にすぎません。コンビニにとって重要なのは幹の部分である立地のはずです。それなのにセブンの売上が高い理由についてAさんは幹の話は一切せずに枝の話を取り上げたのです。これはとても奇妙なことです。考えられる可能性を挙げてみました。

  1. コンビニ関係者にとって立地が重要な要因というのは今さら言うまでもないほどの常識であった。しかし、立地だけでは説明できない理由がある。それが0.1×100であった。Aさんは立地のことなんか今さら説明するまでもないと思っていた可能性がある。
  2. 立地の話題に触れたくない何らかの理由があった。ましてや相手は今日初めて会う部外者で当然ながらAさんは私に対してある程度の警戒感は持っていたはず。つまり、聞かれたことに対して全て正直に答える必要はない。

これ以上のことはセブン上層部やAさんに直接話を聞かないと分からないことですが、もちろんそんなことはできるはずもありません。だいぶ前に、セブンについての話をしたくてAさんに電話をしたことがありました。Aさんは不在で伝言をお願いしましたが、ご連絡をいただくことはありませんでした。

ところで、枝が幹に触れると見える景色は一変します。

もし、これがコンビニ日販グラフの答えだとしたら・・・ ノルマを達成するために一番売上に影響する要因でごまかしが行われていれば当然、日販にも大きな影響が出るはずです。そうはいってもチェーン本部も愚かではないので、こうして書籍でも言及されていることに対しては、人事評価制度を変えるなどの対策をしているはずです。既に出店してしまった店に関してはどうにもなりませんが。

結局のところ、恐怖政治と虚偽の報告問題の本質は、如何にして人を動かすかの問題です。その動かし方によっては副作用が生じます。人を動かすために恐怖政治というムチを使う。しかし、人を動かすには報酬と言うアメを使うこともできます。しかし、ムチにしろアメにしろその本質は同じです。それは行動心理学の分野で外発的動機付けと呼ばれています。しかし、人を動かすために外発的動機付けを使うのであればアメであっても副作用は生じます。

長い間サラリーマンをやっていれば分かりますが上司に怒られたくない、給与や賞与は下げたくない、だから自分にとって都合の悪い情報は隠す、と大抵のサラリーマンは大なり小なりそう思うものではないでしょうか。とはいうものの、組織の利益に貢献している人としていない人を明らかにし、それを人事に反映させることも重要です。副作用を出さないために徹底的に論理的な質問をするのも重要なことかもしれませんが、それよりも組織がアメとムチに過度に頼らずに人々が内発的動機付けによって働くのが一番だと思いました。アメリカでは20代のうちに平均で5回転職するそうです。2年に1回転職するわけです。そうして自分に合う仕事を見つけます。また、最近は一部の大企業で副業が認められたり、違う企業間同士で人材の相互受け入れを行うなどの変化が見られます。それをすることによってシナジー効果を高めたり、その企業にいるだけでは分からない知見が得られたりして新しいものを創造するチャンスが増えるのだと思います。そして、それらは個々人の内発的動機付けを高めることにつながっていくものだと私は考えます。日本では少子高齢化に伴い今まで以上に人材の活用が求められます。これからの日本の企業も変わっていくのではないでしょうか。

さて、今までは私個人の推測を長々と展開させていただきましたがセブンの売上が高い理由についてGeminiはどのような回答を出してくれるのでしょうか?

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